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東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)9号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1(一) 成立に争いのない甲第二号証(願書添付の明細書、以下「本願明細書」という。)、甲第三号証(昭和五三年三月三一日付け手続補正書)、甲第七号証(昭和五七年一一月一日付け手続補正書)によれば、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果は、次のとおりであると認められる。

本願発明は、蒸気発生装置に関し、特に水を蒸気に変換するための臨界以下の、又は超臨界の貫流型蒸気発生装置に関するものである(本願明細書第一頁第一六行ないし第一八行)。

水を蒸気発生部及び過熱部を通して蒸気に変換させる貫流型蒸気発生装置においては、従来より、始動時及び全負荷作動中望ましい状態にある所望の量の蒸気を得るため、蒸気発生部と過熱部との間及び/又は過熱部とタービンとの間の流体回路内のある点において流体の一部をバイパスさせるための回路を設けたり、蒸気発生部と過熱部との間に分離器を設けたりする装置が提案されてきたが、バイパス回路を設けた場合、その操作には相当の時間とエネルギーを要し、またコストも増大するという欠点があり、また分離器は主圧力部の完全作動圧より相当低い限られた圧力にしか対処することができず、この点を克服するには比較的大型で肉厚の分離器及びそれに付随する諸部品を使用する必要があつた。これらの点を解決するための米国特許願第七一三三一三号に開示された装置では、蒸気発生部と過熱部との間に主流路導管内に複数の分離器を設置し、蒸気発生装置の炉部の各囲い壁は、管の両側から外方にフインを突出させ、これを隣接する管のフインと連結して気密構造とし、超臨界の水を炉の囲い壁構成管を通して多重流路に沿つて通流させ、水の温度を上昇させるという構成を採用した。しかし、右構成では、不均一な熱吸収を行う管部分が存在するため、多重流路内の流体を互いに混合させて熱の均等化を図る必要があり、このために多重流路の各流路と流路との間に管寄せを配設しなければならず、この点でコスト高をもたらすばかりか、管寄せ内において蒸気相と液体相との分離が生じ、それより下流の回路への流体の分配を不均一にする可能性があるので炉を可変圧で作動させるのに適さなくなり、さらには、炉の管の出口と分離器との間に圧力減少用部署を配設することや、炉壁構成回路によつて形成される各流路(バス)を連結するために比較的多数の降下管を設ける必要があるという問題があつた(同第一頁第一九行ないし第七頁第一三行)。

本願発明は、右知見に基づき、前記問題点を解決するため、分離器を蒸気発生部と過熱部との間において主流体流れ回路内に直列式に配設し、更には複数の相互に連結した管によつて構成された囲い壁から成る炉部を設け、それらの管は炉部上方部分及び下方部分においては垂直に延長させ、炉部の中間部分においては水平面に対して鋭角に延長させ、流体が炉部の囲い壁回路を単一流路(バス)に沿つて貫流するようにした蒸気発生装置を提供することを目的とし(同第七頁第一三行ないし第九頁第七行)、本願発明の要旨のとおりの構成を採用したものである(昭和五七年一一月一日付け手続補正書第一頁第三行ないし第二頁第八行)。

本願発明は、右構成を採用したことにより、蒸気発生部の炉の熱は均等にならされ、流体を炉部の囲い壁を通して一回通しで通流させることができ、したがつて多重流路又は通し及びそれに付随する管寄せ及び降下管の使用を省除することができ、また、高い質量流量及び大径の管サイズを使用することができるという作用効果を奏するものである(本願明細書第一八頁第九行ないし第一九行)。

(二) 他方、第一引用例記載の発明は、蒸気発生部と流体分離部と過熱部とを有した流体流れ回路から成り、蒸気発生部は、一例として交差帯域を有する複数の管から成る囲い壁と、囲い壁の管内に流体を通流させるための手段と、各管内を通る流体を加熱するためのバーナとから成り、流体分離部は、蒸気発生部から流体を受け取つて液体と蒸気とに分離するように構成されており、流体流れ回路は、流体分離部からの蒸気を過熱部へ送給するようにした蒸気発生装置であることは原告も認めるところである。そして、成立に争いのない甲第五号証によれば、第一引用例記載の発明は、単流蒸気発生器に関し、特にジエツトポンプ補助自然循環流を始動時及び低負荷時に使用し、発生器回路内の流体圧力を負荷需用につれて変化させる単流発生器に関するものであり(第一頁第二欄第一五行ないし第一八行)、「放射加熱炉包被体と前記包被体に液体流を流通させる給送ポンプ装置とを有する単流型の蒸気発生器に於いて、前記発生器全体に亘つて略々同一の圧力を設定し且つ負荷に応じてその圧力を変化する装置と、前記炉包被体から流出する流れが蒸気―液体混合物であるときには前記包被体からその流れを受入れる分離装置と、前記流れの液体部分を前記炉包被体へ再循環させるための再循環装置とを設け、前記分離装置と前記再循環装置とは前記炉包被体と共に自然循環ループを設定し、更に前記再循環流と前記給送ポンプ流とを混合する装置と、再循環流を断続して発生器流を自然循環流又は完全な単流の何れでも転換せしめることを特徴とする単流蒸気発生器(第一頁第一欄第四行ないし第一八行)」との構成を要件とするものであることが認められる。

(三) 第二引用例には、互いに密に溶接された多数のひれ付パイプを燃焼室の周りにらせん状に巻回し、このパイプの上方は垂直に延長させるようにした蒸気発生部を有するようにした蒸気発生装置が記載されており、第二引用例記載の発明は第一引用例記載の発明と同じく貫流ボイラに関するものであることは当事者間に争いがない。

2 一致点の認定について

(一) 原告は、本願発明における「直列流れ関係」とは、流体を再循環せずに流体流れ回路に一回通しで流通させることをいうのであつて、流体分離部で分離した液体をバイパス回路を通して蒸気発生部の入口に送給再循環させることを要件とする第一引用例記載の発明とは、この点で構成を異にする旨主張する。

しかしながら、前掲甲第七号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には「蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部と、それらの部を直列流れ関係に連結する流体流れ回路とから成り、(中略)前記流体分離部は、前記蒸気発生部から流体を受取つて液体と蒸気とに分離するように構成されており、前記流体流れ回路は、該流体分離部からの前記蒸気を前記過熱部へ送給するようになされていることを特徴とする蒸気発生装置(昭和五七年一一月一日付け手続補正書第一頁第四行ないし第二頁第八行)」と記載されており、さらに、前掲甲第二号証によれば、発明の詳細な説明において「本発明の更に他の目的は、上記各分離器内において最初に発生する蒸気を直ちに過熱器及びタービンを含む主蒸気回路内に通し(本願明細書第八頁第四行ないし第六行)、」「本発明の更に他の目的は、前記各分離器を蒸気発生部と過熱部との間において主流体流れ回路内に直列式に配列した蒸気発生装置を提供することである(同第八頁第一〇行ないし第一三行)。」「本発明の装置は熱交換流体を受取り、それに熱を与えるための蒸気発生部と、該流体に更に追加の熱を与えるための過熱部と、前記蒸気発生部を過熱部に連結するための流体流れ回路を有する。複数の分離器を蒸気発生部及び過熱部と直列流れ関係をなすようにして前記流体流れ回路内に接続し、それらの分離器は(中略)蒸気発生装置から流体を受取り、その流体を(中略)蒸気と液体とに分離させるようにする。分離された蒸気は流体流れ回路を通して過熱部へ送る(同第九頁第八行ないし第一八行)。」と記載されていることが認められる。

右事実からすれば、本願発明における流体流れ回路は、流体に熱を与える蒸気発生部と、流体を蒸気と液体に分離する流体分離部と、蒸気に追加の熱を与える過熱部とにより成るものであり、流体は蒸気発生部から流体分離部に送られ、更に流体分離部から蒸気が過熱部へと送られて行くという流れになつていることが認められる。してみると、本願発明において「蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部と、それらの部が直列流れ関係に連結する」とは、蒸気の発生に当つて、流体が蒸気発生部、流体分離部、過熱部の各行程を次々に経て行く構成を意味するものと解するのが相当である。このように、右各部が「直列流れ関係」にあるとは、流体分離部で分離された液体の経路、例えば、バイパス回路を経て再び蒸気発生部に送給されるか否かについてまで限定するものではないから、これが、流体を再循環せずに流れ回路に一回通しで流通させることを意味するものとはいえない。

そして、前記1(一)、(二)で認定したとおり、本願発明と第一引用例記載の発明は、共に蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部とから成り、蒸気発生部で加熱された流体は流体分離部に送られ、ここで蒸気と液体に分離され、蒸気は過熱部に送給されるという構成であるから、両者はいずれも蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部とが直列流れ関係に連結されていることは明らかであり、この点における審決の認定に誤りはない。

原告は、本願発明は流体分離部で分離した液体を再循環することなく、ドレンマニホールド及び熱回収回路へと送給するものであつて、バイパス回路を備えていないのに対し、第一引用例記載の発明は、流体分離部で分離された液体をバイパス回路を通して蒸気発生部の入口へ送給再循環させるものである、と主張する。

しかしながら、本願発明における「直列流れ関係」とは、流体を再循環せずに流体流れ回路に一回通しで流通させることを意味するものでないことは前記判示したとおりであり、また、前掲甲第七号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には、流体分離部で分離された液体がドレンマニホールド及び熱回収回路へと送給される構成について何らの記載もない。したがつて、原告の前記主張は、本願発明の要旨に基づかないものであつて採用し得ない。

(二) 原告は、本願発明においては、流体分離部は炉壁18、20、22、隔壁58、熱回収帯域30、頂壁60の後で、一次過熱器52の直前に配設されているのに対し、第一引用例記載の発明では、流体分離部は炉回路14の直後であつて部分分割壁及び屋根管16の上流側に配設されており、両者はその配設位置を異にする旨主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証、甲第七号証によれば、本願発明の特許請求の範囲には、「蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部と、それらの部を直列流れ関係に連結する流体流れ回路から成り、前記蒸気発生部は、(中略)隣接する管のフインとフインを相互に溶接することにより結合させて気密構造となされた囲い壁を有する直立炉部と、それらの囲い壁のすべての壁の管内を同時併行的に通して流体を通流させるための手段と、該各管内を通る流体を加熱するために前記炉部に設けられたバーナとから成り、(中略)流体分離部は、前記蒸気発生部から流体を受取つて液体と蒸気とに分離するように構成されており、前記流体流れ回路は、該流体分離部からの前記蒸気を前記過熱部へ送給するようになされている」と記載されているだけであつて、流体分離部が炉壁18、20、22、隔壁58、熱回収帯域30、頂壁60の直後で、一次過熱器52の直前に配設されているとは記載されておらず、右は本願発明の一実施例における態様にすぎないものでしかなく、原告の右主張は本願発明の要旨に基づかないものであつて、採用し得ない。

本願発明と第一引用例記載の発明とは、いずれも蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部と、それらの部を直列流れ関係に連結する流体流れ回路とから成るものであり、流体分離部は蒸気発生部と過熱部との間にあつて、蒸気発生部より流体を受け取り、蒸気を過熱部へ送給するものであることは前記(一)で認定したとおりであつて、流体分離部の配設個所について両者間に相違はない。

2 相違点(二)の判断について

本願発明の、蒸気発生部は、各管が炉部の上方部分においては囲い壁の平面内で垂直に延長させ、炉部の該上方部分より下方の各囲い壁の少なくとも一部分においては水平平面に対して鋭角をなして延長しているとの構成は、第二引用例に記載されており、第二引用例記載の発明も第一引用例記載の発明と同様貫流ボイラに関するものであることは前記1(三)のとおり当事者間に争いがない。

右事実によれば、第二引用例記載の発明も第一引用例記載の発明も、共に蒸気発生装置に関するものであり、同じ技術分野に属するものであるから、第一引用例に記載の蒸気発生部における交差帯域を有する管の構成に代えて前記第二引用例に記載の技術を適用することは当業者が容易になし得ることであると認められる。

そして、第二引用例には前記構成による作用効果について何らの記載もないが、成立に争いのない甲第六号証によれば、第二引用例には、「らせん状蒸発装置は互いに密に溶接された多数のひれ付きパイプから構成され、同時に燃焼室壁の一部を形成する。このような貫流ボイラにおいて蒸発装置を沸騰温度以下の作用媒体により下方に向かつて貫流される垂直パイプにより吊下げることは既に知られている(第一頁第一欄第一六行ないし第二欄第二行)。」「本発明は燃焼室壁(蒸発用パイプ)と支持用パイプとを全長にわたつて等間隔的に溶接することを避けるものである。(中略)従つて本発明によれば、らせん状蒸発用パイプと支持用パイプとの固定接続を蒸発用パイプの上下二個所で行ない、その他の個所の接続はすべり接続とする(第一頁第二欄第一九行ないし第二頁第三欄第一〇行)。」と記載されていることが認められ、右事実からすれば、貫流ボイラにおいて蒸気発生部の管をあえて燃焼室の周りにらせん状に巻回し、その上方は垂直に延長させるという構成を採用することは第二引用例記載の発明の特許出願前当業者において既に知られていたものと解される。してみると、蒸気発生部の管を第二引用例に記載のごとく構成することにより、バーナからの熱は各管に無駄なく、かつ均等に当たるため、熱の一層効率化と均等化が図られ、したがつて、囲い壁のすべての壁の管内を同時併行的に通して流体を通流させても充分な蒸気が得られることになり、多重流路又は通し及びそれに付随する管寄せ及び降下管の使用を省除することができ、また管を斜めに延在させたことにより垂直管構成のものに比べて高い質量流量及び大径の管を使用することができるという作用効果を得ることは、第二引用例に直接記載されていなくとも、当業者に容易に理解し得るところである。

他方、本願発明が管を炉部の上部部分においては囲い壁の平面内で垂直に延長させ、炉部の下方部分の囲い壁の一部においては水平平面に対して鋭角をなして延長させることにより、炉の熱を均等にし、流体を炉部の囲い壁を通して一回通しで通流させることを可能にし、したがつて多重流路または通し及びそれに付随する管寄せ及び降下管の使用を省除し、また垂直管構成のものよりも高い質量流量及び大径の管を使用することができるという作用効果を奏するものであることは前記1(一)で認定したとおりである。

してみると、本願発明の前記作用効果は、第一引用例に記載の交差帯域を有する管の構成に代えて第二引用例に記載の技術事項を適用することにより得ることができるということは当業者が容易に予測し得るものであると認められる。

したがつて、相違点(二)については、第一引用例記載の発明における蒸気発生部が、同一技術分野の公知技術で置換されていることによる差にすぎなく、当業者が格別困難性なくなしえた範囲のことであり、本願発明によつてもたらされる作用効果も、第一引用例及び第二引用例記載の技術事項並びに従来周知の技術から、当業者が普通に期待するものの総和を格別越えるものでもない、とした審決の認定、判断に誤りはない。

原告は、本願発明は、蒸気発生部の管を前記の構成にしたことにより、複雑な弁機構を備えたバイパス回路が不要となり、始動時から全負荷に至る行程において流体を流体流れ回路内に一回通しすればよいという特有の作用効果を奏するものである、と主張するが、右は、前記2、3で判示したとおり本願発明の要旨に基づかない構成での効果をいうものであつて、採用し得ない。

4 以上のとおりであるから、一致点の認定及び相違点(二)についての審決の判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由としてその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

蒸気発生部と、流体分離部と、過熱部と、それらの部を直列流れ関係に連結する流体流れ回路から成り、前記蒸気発生部は、各々直径方向に相対向した両側部分から外方に突出したフインを有する複数の管によつて構成され、隣接する管のフインとフインを相互に溶接することにより結合させて機密構造となされた囲い壁を有する直立炉部と、それらの囲い壁のすべての壁の管内を同時併行的に通して流体を通流させるための手段と、該各管内を通る流体を加熱するために前記炉部に設けられたバーナとから成り、該各管は、該流体の液体分の少なくとも一部分を蒸気に変換するように前記囲い壁の全高に亘つて該バーナからの熱に直接露呈されるようになされており、前記各管は、前記炉部の上方部分においては前記囲い壁の平面内で垂直に延長させ、炉部の該上方部分より下方の各囲い壁少なくとも一部分においては水平平面に対して鋭角をなして延長させて成り、該蒸気発生装置の始動時及び全負荷作動中前記流体分離部は、前記蒸気発生部から流体を受け取つて液体と蒸気とに分離するように構成されており、前記流体流れ回路は、該流体分離部からの前記蒸気を前記過熱部へ送給するようになされていることを特徴とする蒸気発生装置

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